菊山博之が交流を深めた方々に時代の最先端から見つめていることについてインタビューします。
第1回目のお客様はNTT西日本電信電話株式会社 常勤監査役 香取一昭さん。
ホールシステム・アプローチについてお話を伺いました。

現場の関係性を変えるためのAIの実例(2)

菊山
合併したのに、旧組織でいたずらに敵対してビジネスがうまくいかないということはよくありますから。私もある製菓会社の工場でAIを実施しました。すると「今までこんなに話したことはなかった」「これから何でも話しやすくなりました」という意見が出ていました。工場というのは、今でも従弟制度のような仕組みや空気があって、親方と弟子のような関係ができあがっている。学歴も、現場で働いている人は高卒や中卒、その上を大卒の人が通り過ぎていくというような構造が多いです。そうすると、現場の人たちは、工場長や総務部門と敵対しやすい。勿論、あからさまに敵対はしないでしょうが、敵対しがちな構造や空気があり、心の中では不満を持ちやすい状況になっていく。不祥事や事故を起こした工場では、現場が会社のいうことを聞かない、会社は現場の声を聞けていない、という状況になった。

工場でAIアプローチを使って話し合いを進めて行くとかなり変わるのです。前出の工場でAIをやった際のエピソードですが、「私は高卒で、こういう研修は苦手で、今日も緊張しています」と自己紹介した40代の女性がいて、最初は黙っているのですが、AIインタビューが始まって進めて行くうちに、積極的に話し出した。こういう手法をワークショップに入れていくと、話し合いの中身と結果が随分変わる可能性があります。

香取
そうですね。うまく表現されてない、それから共有されてない、そういうナレッジがたくさん現場に隠れていますね。

菊山
隠れているのです。どうせ言っても分かってもらえない、という風に思っている可能性もあります。以前、言ってみたことはあるけれど、誰にも聞いてもらえなかった、とか。そうすると、組織開発の原点として、そこで働く人達の関係性を良くしていくこと、ポジティブな形にしていくアプローチをまずとっていくことが大事だと言えますね。

香取
全てがというわけではないのですが、品質改善運動とかありましたよね。あれって、組織がどんどん暗くなるんですよ。うまくいかないのはなぜだ、なぜだ、を繰り返して行って、どこが悪い、どこが悪い、と段々自分で自分の首を絞める。責任問題じゃないけれど、暗くなっちゃう。

菊山
悪いところを見つけていると、悪い理由を考えていると、自分たちの問題としてはね返って来ますよね。だから、気持ち、暗くなりますよね。

香取
だからもっと前向きにモノを見ていく。ポジティブシンキングの方が効果的です。この点もホールシステム・アプローチに共通して言える。どの手法を見ても同じです。悪いところではなくいいところを見つけていく。

菊山
今の話は、ものすごく大事な話ですね。例えば、うつ病の人が増えていることにしても、結局、問題を自分で抱え込んでしまって、自分が辛いことをあまりうまく伝えられないのでうつ病になってしまう、という面もあるのです。これもやはり、その人が所属している組織の関係の質がきちんと機能していれば、休まなければならないところまで症状が進むことなく、途中で解決できるはずです。