菊山博之が交流を深めた方々に時代の最先端から見つめていることについてインタビューします。
第1回目のお客様はNTT西日本電信電話株式会社 常勤監査役 香取一昭さん。
ホールシステム・アプローチについてお話を伺いました。

ホールシステム・アプローチとファシリテーション

菊山
最近注目されている「Appreciative Inquiry(AI)」「Open Space Technology(OST)」について経営のお立場・組織を開発するお立場で、どのように捉えていらっしゃるのか、実際どういう風に使えるのかどんな効果があるのか、など、その辺のお話をお聞かせいただければと思います。「ワールドカフェ」を実施された時のことも、ぜひお伺いできればと思います。

香取
今は、誰か偉い人が「こうやれっ」と言えば組織全体が一斉に動き出す、ということがなくなってきたわけですよね。今は、「納得」が重要です。言われたからやるという単純なことではなくなったので、自分が納得しないと動きません。それから、仕事や組織を取り巻く環境が複雑化して、以前のように自社や自組織内で完結することはなくなり、様々な人が関わり合うようになってきました。ですから、一人で何かできるということはなく、他のセクションとの関連や、お客様との関係、消費者との関係、さらにはもっと広く色々な関係を取りながらやっていかないと、うまくいきません。そういう流れの中で、「社員や関係者を一堂に集め、一緒に話し合いをやろう」という動きが起きています。ビジョンを作るのもそうだし、色々な課題解決をする場合にも、です。私は今、「ホールシステム・アプローチ(whole system approach)」と呼ばれる一群の「ダイアログ」に注目しています。

菊山
これまでも「集まって話し合いをしましょう」とファシリテーションの形でやっていたわけですがそれとAIやOSTのアプローチは随分違うと思います。どんなところが違うのでしょうか。また、実際に実施されてみての感想をお聞かせください。

香取
最も違う点は、従来のファシリテーションは「まとめよう」とする点ですね。意図が働いている。うまくまとめると、いいファシリテーターだと言われるので、どうしてもまとめようとする意図が働くわけです。あるいは、参加者の中に答えがあるので、それを引き出せば引き出すほどいいファシリテーターだということをよく言いますが、そうすると、どうしても「まとめる」ということに重点が置かれてしまうわけですね。参加者は、なんだかまとめられてしまった、結論づけられてしまったような気持ちを感じ、必ずしも納得ししていないままで終わってしまいます。先程の納得の話につながりますが、納得していないので、行動するという段階に進みません。ホールシステム・アプローチという方法は、無理に結論を出そうとはしないので、従来型のファシリテーターから見ると、なんとも頼りないというか、ファシリテーションしていない、という風に見えるわけです。ただ、結論を出さないと言いながら、徹底的に話し合うことによって、その会場を出る時には、参加者全員が、自分のこれからの行動について心の中で分かっている、という状態になることを狙っているのではないかと思います。

菊山
なるほど。その場で全員が納得した答えが出るわけではなく、参加者それぞれが、自分の抱えているテーマに対しての答えを自分の中に持って帰る、ということですね。そうすると、従来型のファシリテーション・スキルが未熟なファシリテーターだと起こりがちな、参加者が納得しないまま終了の時刻になるとか、この辺で納得しておいた方がいいかなという心理が働いて表面上は納得したふりをする、というようなことが起きないので、確実に行動の段階に移っていくということですね。