菊山博之が交流を深めた方々に時代の最先端から見つめていることについてインタビューします。
第1回目のお客様はNTT西日本電信電話株式会社 常勤監査役 香取一昭さん。
ホールシステム・アプローチについてお話を伺いました。

はっと気がつく瞬間があって、関係性が変わる

香取
南アフリカでアダム・カヘンが行った紛争解決のダイアログでも、利害関係のある、敵対している相手同士が集まって来て話し合っている。あれも広い意味ではホールシステム・アプローチです。

菊山
何をやるかという目的はある。目的だけがあって、目的に達しようとして一緒にやっていく中でダイアログが始まり、みんなの関係が変わっていく、というやり方ですね。
香取
話していると、ある時はっと気がつく瞬間があるのですね。

菊山
そういう瞬間は、見ていて分かるのですかね。アダム・カヘンのようなファシリテーションをしている人は。

香取
分かるのでしょう。そういう話し合い方をしているのだと思います。相手の心の深いところに耳を傾けたりするような聴き方をしていますからね。その中で参加者の課題に対する想いみたいなものが、わぁっと分かる。参加している人も全員分かっていることが大事で、ファシリテーターが分かっているだけではなくて、おそらく参加者全員が気づくのでしょう。

菊山
なるほど。同時に気がつく、みたいな感じですか。

香取
そうそう、それがものすごく大事だと思う。場面がそこでガラッと変わって来るわけで、新しい段階に入って来る。そういう瞬間があります。

菊山
それは、誰かの発言がきっかけになったりする。でも、そういう発言が出て来るかどうかは、仕組めないですよね。

香取
仕組めません。ホールシステム・アプローチは全部そうなのです。

菊山
うん、仕組めない。

香取
話し合いをすること自体が非常に大事だということです。ワールドカフェを提唱したアニタ・ブラウンがこういう話をしていました。宗教や倫理観につながるテーマについての論争で、表面的には戦っていたのですが、非公式な場所で賛否両方の人達が集まって、密かに話し合いを始めていました。しかし結局は、双方とも意見は変わらなかった。ところが、お互いに、相手がなぜそういうことを言っているのか、ということがよく分かるようになった。それから話し合いの内容が徐々に変わって来た、というようなことを言っていましたね。話し合いとして解決までには至っていなくとも、相手を理解するようになったということは大きな成果だったわけです。

菊山
倫理観の問題では、主張はほとんど変わらないですよね。それでも、相手を理解してしまえば、あなたたちは間違っているなどと、一方的に攻撃するということはなくなる、ということですね。関係の質が変わった、ということですね。